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子どもに読書のよろこびを


  

                  



1  68() 午前の部:10:00〜12:00  午後の部:13:00〜15:00
        ※初回は、9:50から開会式をおこないます。

午前 ロシア児童文学の流れを辿る 昔話から現代の作品まで
   

午後 わたしとロシアの児童文学   翻訳した作品と作家や画家たちとの交流について
   


講師 松谷さやか(まつや さやか)氏
・早稲田大学大学院露文科修士課程修了。児童文学の編集を経て、ロシア児童文学の翻訳、研究に携わる。訳書に『こねずみとえんぴつ』『なぞなぞ100このほん』『森からの手紙全3巻』『北の森の十二ヵ月』(下)『イワ−シェチカと白い馬』(福音館書店)、『金のさかな』(偕成社)、『海と灯台の本』(新教出版社)など多数。著書に『はりねずみかあさん』など。「ロシア児童文学の世界展」(国立国会図書館国際子ども図書館・2005年)の監修を務めた。


★松谷先生が紹介して下さったロシアの本がズラリ!原作の絵の美しさに溜息がでました。

松谷さやか先生は、『おおきなかぶ』(佐藤忠良絵・福音館書店)を訳された内田莉莎子氏の後継者として、JBBY(日本国際児童図書評議会)や国立国際児童図書館の事業にも深く関与されております。現在出版されているロシアの子どもの本関係の翻訳を一手に引き受け、ご著書も多数あります。
 講演では、ロシアの児童文学の歴史を、トルストイが貧しい農民の生活を描きながらモラルを教え、初めて子どものための本が印刷された帝政時代、児童文学の父と謳われるゴ−リキ−やマルシャ−クなどが新しい児童文学に基礎をつくり、アバンギャルトが活躍したソ連時代、そしてソ連崩壊後から現代まで、とに分けて詳しくお話してくださいました。ロシアの子どもの本を通し、ロシアの歴史を知ることにより、ロシアを身近に感ずることが出来たのではないでしょうか・・・・。


※詳しい講座報告は、会報「ダンボのみみ 22号」に掲載される予定です。
   
《受講生アンケートより》
ロシアの時代と児童文学の流れが良くわかりました。原作のロシアの絵が独特でした。
「おおきなかぶ」がロシアでは黄色というのにびっくりしました。
歴史と本の関係、どんな時代にも文学や本は生き続けるものだと感動しました。
原書の美しい絵に感心しました。アバンギャルドの画はスタイリッシュでモダンですね。
ロシア文学の流れを、先生のエピソードと共に楽しく学ぶことが出来ました。レジュメに、本のリストがついていたので、学ぶ上で助かります。
ロシアの歴史を辿りながら、沢山の絵本作家の努力、子どもたちを何とか美しい道へ歩ませようと頑張る世界を教えて頂き、本当にうれしく感動しました。
午前、午後とエネルギッシュなお話でした。「おおきなかぶ」「てぶくろ」「こねずみとえんぴつ」など、良く知っているはずの本でしたが、知らなかったことを聞けて良かった。
松谷先生の経験・人脈の豊かさ、楽しいお話にロシアへの関心が深まりました。



★松谷先生が持ってきて下さったマトリョーシカです。エリツィン、ゴルバチョフ、
ブレジネフ、フルシチョフ、スターリン、レーニンなどの蒼々たる政治家が並び、
ロシアの激動の時代を感じます。

2  721() 午前の部:10:00〜12:00  午後の部:13:00〜15:00

午前 ロシアの児童文学を訳して  アルローフからチュコフスキーまで

午後 ロシアの児童文学における善意  「体制」の中に咲く花


講師 田中潔(たなか きよし氏
・1962年生まれ。神戸大学大学院を経てモスクワ教育大学院に学ぶ。イルクーツク国民経済大学で2年間日本語教師をした後、関西や北陸の大学でロシア語非常勤講師を勤める。訳書に『ハリネズミと金貨』『ワニになにがおこったか』『フェドーラばあさんおおよわり』『ロシアのわらべうた』『でんわ』(偕成社)、『ハリネズミくんと森のともだち』(岩波書店)、『てぶくろ』『麦の穂』『わらの牛』『きつねとねずみ』(ネット武蔵野)など多数。



『ロシアの児童文学を訳して』−アルローフからチュコフスキーまで−

 田中先生は、ロシアでお生まれになり、ロシア児童文学研究の第一人者をお母様(田中泰子さん)にお持ちになり、ロシアが体の細胞の半分を形成しているかのような方でした。もう少し聞いていたいような、ロシア語の美しい響きに、つい、うっとりとしてしまいました。
 翻訳作業の実態について、『ストーカー』(アルガジイ&ボリス・ストルガツキー著/深見弾訳/早川書房)をあげて、詳しく解説していただきました。原題は『路傍のピクニック』というSF小説で、地球に来訪した異性人が残して行った痕跡「ゾーン」、そこから様々な物を無断で運び出す「ストーカー」(密猟者)達。知性とは何か?人間とは何か?を問いかける名作のようですが、只今絶版。翻訳にはセンスと感覚が必要で、ロシア語の特性を日本語に表現するのはとても難しく、元のイメージを崩さないように日本語にすると、ぎこちないものになってしまうそうです。
 また、ロシアの児童文学の巨人「チュコフスキー作品」の翻訳についても触れ、韻文のリズムが作る文学の力について教えていただきました。ロシアの子ども達はチュコフスキーのお話を、韻を踏んで空で言うことができるほど、深くなじみ愛しているのだそうです。
 その他にも、『ワニになにがおこったか』(M・マスクビナー原作/田中潔文/V・オリシヴァング絵)では、日本の出版事情で挿絵を画家に加筆してもらったり(P16.17)、表紙の絵を描き直してもらえないかとお願いしたり(こちらは実現しなかった)と、絵本が日本で出版されるまでには、様々な人たちの才能と努力が生きているのだと思いました。
 本を子ども達に手渡す者として、心に留めておきたいことをたくさん教えていただいた講演となりました。

『ロシアの児童文学における善意』−「体制」の中に咲く花−

 「ロシア人は本当に最後のズボンまでくれるか?」つまり、ロシア文学におけるバカとは何者なのか。トルストイの『イワンのばか』にしてもドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』にしても、登場人物は日本人に理解しがたい行動をとります。ロシアとは、はたしてどんな国なのか?日本でロシア文学を読む意味は何なのか?を、作品やアニメーションを通して教えていただきました。
 文学は現実の真逆を描くもので、現実があまりひどいと反対のことが文学作品に表れる。文学に描かれた善意は、作者の空想に過ぎないかもしれないが、夢の大きさはうそをつけない。想像したことがない人には描くことは難しいかもしれないが、そこには、他人と痛みを分かち合う心がある。それは『セルコ』に登場するオオカミであり、『斧のお粥』の農婦ではないか。ともすると、農婦は食べさせてやりたいという気持ちから、わざとだまされてやったとも考えられる。こういう善意が、ロシア文学には通奏低音のように流れているのだということが分かりました。
事実、先生がロシアに住んでいたころ、ニンジン2本を「もっていきな!」と八百屋のおばさんに貰ったこともあるし、ホームレスに自分の食べているパンを「食うか?」と差し出されたこともあるそうです。
 ロシア人は良くも悪しくも非文化的で、本能的欲求に弱い人々らしい・・日本人はそれに比べて堅実で確か。その代わり夢を見ない。ロシア文学を読むことによって、時々ハメのはずし方をロシア人から学ぶと良いのではないか、ということでした。
長いロシア文学に挑戦してみるきっかけをいただいた、興味深い講演でした。


※詳しい講座報告は、会報「ダンボのみみ 22号」に掲載される予定です。
   




3  825() 午前の部:10:00〜12:00  午後の部:13:00〜15:00

午前 絵本と映像の間 “きりの”なかの はりねずみ

   

 絵本に現れたロシアの心


講師 児島宏子(こじま ひろこ)氏
・東京生まれ。日ソ学院(現、東京ロシア語学院)本科卒。モスクワ大学ロシア語教師養成セミナーで研鑽を積む。訳書に『きりのなかのはりねずみ』『きつねとうさぎ』(福音館書店)、『アオサギとツル』『うさぎの恩返し』(未知谷)、『ドルチェ‐優しく』(岩波書店)、『チェーホフが蘇る』(書肆山田)、『チェブラーシカとおともだち』(平凡社)など。著書に『だれのくるま?』(福音館書店)など多数。ロシアの文化全般に興味を持ち日露を行き来している。


「絵本と映像の間 きりのなかのはりねずみ」

 映像作家ユーリー・ノルシュテイン作『きりのなかのはりねずみ』と『きつねとうさぎ』の上映から始まりました。ロシア語の音声をその場で児島先生が訳してくださいます。耳になじみのないロシア語の響きが映像と相まって、ロシアの空気が感じられるようでした。作品の中の登場人物(?)の性別やモチーフの表す意味などその国によって違うことなどお聞きすると、理解が深まり、絵本や映像が一層興味深く楽しめました。映像から作られた絵本『きりのなかのはりねずみ』の制作秘話は、映像と絵本の違い、映像作家と出版社の意見の違いが、ノルシュテイン氏の口調も楽しく語られました。絵本と映像の間にいたのは、児島先生だったのかもしれません。

「絵本に現れたロシアの心」

 午後の講座はロシアの歴史散策からでした。何年にどんなことがあったかなど歴史に興味がなくても、侵略や内戦の過去がわかってくると、ロシアの人たちや作品への理解が深まります。児島先生の手がけたチェーホフ・コレクションの絵本たちも、とても美しく考えさせられる作品集です。「本当はとても悲しい歌なのよ」とロシア語で歌って下さったトロイカは、あの小さな身体からだとは思えないほど重く力強いものでした。児島先生のロシアへの愛が感じられた講座だったと思います。

《受講生アンケートより》
『きりのなかのはりねずみ』が出来上がるまでの詳細なお話は、先生だからこそ伺えるもので、大変興味深かったです。ロシアの人たちの自然観や考え方など楽しい話が盛りだくさんでした。
絵本と映像の違い、作者の想い、絵本製作者の考え方等、絵本のセオリー等を教えて頂き、ためになりました。特にノルシュテインさんが後程作ったロシア語の絵本に付け加えた絵を見て、作者の想いが良くわかり、日本版とロシア版で全く違う印象になることが面白かったです。
ロシアの歴史の中から生まれた悲しみ、そして信仰をわかり易く説明して頂き、興味深く聞きました。ロシアの心を学びながら、日本の自分の心を考えました。
ロシアを始め隣国と地面が繋がっている国々と、日本との大きな違いをしみじみと感じました。講義的でない部分のお話がとても興味深かったです。
シア人は良くも悪しくも非文化的で、本能的欲求に弱い人々らしい・・日本人はそれに比べて堅実で確か。その代わり夢を見ない。ロシア文学を読むことによって、時々ハメのはずし方をロシア人から学ぶと良いのではないか、ということでした。
長いロシア文学に挑戦してみるきっかけをいただいた、興味深い講演でした。





4  97() 午前の部:10:00〜12:00  午後の部:13:00〜15:00

午前 ロシアの昔話 1 収集・出版の歴史と語りの現場、主な主人公たち

午後 ロシアの昔話 2  マルシャーク『森は生きている』と
                           スラヴの「12か月物語」


                   

   


講師 伊東一郎(いとう いちろう)氏
・早稲田大学文学部卒業。国立民族学博物館助手を経て、現在早稲田大学文学学術院(文学部)教授。ロシア文学、スラヴ比較民俗学専攻。大学在学中はグリークラブで男声合唱を楽しみ、宮原卓也氏にロシア歌曲を学ぶ。編訳書に『ラフマニノフ歌曲歌詞対訳全集』(新期社)、編著書に『マーシャは川を渡れない―文化の中のロシア民謡』(東洋書店)、『ロシアフォークロアの世界』(群像社)、訳書に『子どもに語るロシアの昔話』(こぐま社)等多数ある。



「ロシアの昔話 1 収集・出版の歴史と語りの現場、主な主人公たち」

  伊東先生のお話を午前午後としっかり学んだ受講生は、きっと充実感を持ってお帰りになられたことと思います。レジュメもA4で午前10枚、午後4枚に及び、先生のソフトなお声で淡々と、かつきっちりと話された内容は初めて知ることも多くありました。
  ある程度以上の年代には有名なロシア歌曲「月曜日にお風呂をたいて、火曜日にお風呂に入る・・・」のお風呂とはどんなお風呂なのか?ということからお話が始まりました。ロシアのお風呂が日本人のイメージするお風呂といかに違うことか!
  またロシアの昔話は普通、動物昔話、世態昔話、累積昔話、魔法昔話の4つに分けられること。ロシア語は名詞に性別があり、くまやオオカミは男性名詞、きつねは女性名詞であるために、ロシアの昔話では、くまやオオカミは男できつねは女なのであることなどなるほどと納得できました。
  有名な「おおきなかぶ」は日本で訳されているお話はアレクセイ・トルストイが再話した形であり、犬のあとにやってくるのは「5本の足」という形もある、など興味の尽きないお話が次々と出てきました。
  ビデオで見せていただいたロシアのおばあさんが孫たちに語り聞かせた「アリョーヌシカとイワーヌシカ」はとても自然で素敵でした。

「ロシアの昔話 2  マルシャーク『森は生きている』とスラヴの「12か月物語」」

  午後はマルシャークの『森は生きている』とその元になったスラヴの「十二ケ月物語」の様々な形についてでした。これは伊東先生が、この講座の2週間前にいらしたベラルーシでの学会で発表なさったというもので、これも興味が尽きない内容でした。
  十二ケ月の月は男性名詞なので、月の精たちは皆男なのだそうです。
  最後に先生はリクエストに答えて、ロシア民謡を歌ってくださいました。今は讃美歌としても歌われている「鐘の音は単調になる」。先生の恩師のお葬式で歌われた歌だそうです。
  このほかにもロシアの昔話によく出てくるイワンは、英語ではジョン、聖書の中ではヨハネであり、愛称はワーニャ。またこれもよく出てくる女の子の名前のマーシャはマリアの愛称形であることなど、教えていただきました。

《受講生アンケートより》
ロシア語に男性と女性の名詞があることを初めて知りました。『てぶくろ』に出てくる動物の性別がこれで納得できた。
言葉の持つ意味、ロシアという風土、背景をとてもわかり易く聞けた。
・栃子の連続講座『子どもに読書のよろこびを』のタイトルですが、大人にも大いなる喜びを与えてくれます。毎回とても楽しいです。
マルシャークの『十二か月』のように、一つのお話でも地域で少しずつ変化していて、読み比べると勉強になる。
ロシアの文学が好きになりました。
先生のロシア語の語り、音が素晴らしかった。
当はとても悲しい歌なのよ」とロシア語で歌って下さったトロイカは、あの小さな身体からだとは思えないほど重く力強いものでした。児島先生のロシアへの愛が感じられた講座だったと思います。






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