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子どもに読書のよろこびを

2019年
子どもの本の誕生から現在(いま)

  
                                     

                               


               

1  6月15日(土) 午前の部:10:00〜12:00  午後の部:13:00〜15:00
        ※初回は、9:50から開会式をおこないます。

午前 アメリカの子どもの本の歴史とその背景
      移民の国アメリカ・別の谷に咲く花

   

午後 子ども・家族・アメリカ
      

   


講師 島 式子(しま のりこ
甲南女子大学名誉教授。編著『VOICES』(晃学出版)、日本イギリス児童文学学会編『英語圏諸国の児童文 学T(物語ジャンルと歴史)U(テーマと課題)』(ミネルヴァ書房)、共著『フィリパ・ピアス』(KTC 中 央出版)、翻訳に『マイゴーストアンクル』(原生林)、共訳『沈黙の闘い』(大和書房)、共訳『ダイシー ズソング』(楡出版)、共訳『マッチ箱日記』『カラス笛を吹いた日』『シェイクスピア・ストーリーズ』(BL 出版)など多数。

                 

                         講義中の島式子さん


                  講座レポート

   
午前の部
「アメリカの子どもの本の歴史とその背景
]
      移民の国アメリカ・別の谷に咲く花

先生は、「現在、文学を教えることが困難になっている。これが一番の問題。言語が失われているのではないか。言葉を通して人はどこまでつながっていかれるのか。今日は、あまり日本で紹介されなかったり、大事にされなかったもの、これだけは伝えたいと思うものを伝えていきたい」と前置きされ、
「アメリカ文学とは移民の文学である。なぜなら、アメリカが移民の国であるから」と、まず、柴田元幸先生が訳し、すべて小学校6年生までで書ける漢字に直した研究社刊の『ハックルベリィ・フィンの冒険』を一番大切な作品として挙げ、それから『はみだしインディアンのホントのホントの物語』。これは、現在のインディアン社会の現実を描いた作品。彼らは最初の移民として、また自らの出所を明らかにするためまた、アメリカン・インディアンと名乗りだしたこと
アフリカンアメリカ文学の代表的作家、バージニア・ハミルトン(島先生とハミルトンさんとの出会いのエピソードも感動的)は言う、「私は逃亡奴隷の末裔。それが私のあかし」その作品『わたしは女王を見たのか』は、“黒人を差別しないでくれ”と書いてない小説で、初めて出会った時、衝撃的だった。
『偉大なるM.C.』では、主人公のお母さんがアフリカの言葉として残っているヨーデルを歌う場面がアメリカ児童文学で一番美しいと思う。
そして、ジューイッシュの文学。ジューイッシュ、ユダヤ人。ナチズムとの関係で『アンネの日記』が有名だが、『やぎのあたまに』『夜が明けるまで』、『闘牛の影』。も是非読んで欲しい。センダックもジューイッシュであり移民2世。彼の『まよなかのだいどころ』にはたくさんの示唆がある。
カニグズバーグも同様『ほんとうはひとつのはなし』『クローディアの秘密』『ベーグル・チームの作戦』(ベーグルは、もともとジューイッシュの伝統的な食べ物)『ムーンレディの記憶』(カニグズバーグは、この作品を書かなかったら死ねなかったと思うほど、この作品に命をかけた)等、アメリカ児童文学について圧倒的なエネルギーでパワフルに語ってくださいました。

午後の部
子ども・家族・アメリカ

・児童文学とは、“自分が子どもであった頃のことをよくよく反芻した人が書いている”として、『ダイシーズ・ソング』をアメリカの旅と家族を描いた作品として絶対に大事な作品として挙げ、『チョコレート・ウォー』を学校と生徒という組織の二重構造のなかで、「NO」という難しさを描き、今に通じること。
『スパイになりたいハリエットのいじめ解決法』は、“人間には嘘をつかなければならない時もある”と大人が子どもに言う最初の作品ではないか等々、作品の紹介はアメリカ文学の枠を超えた、文学というものを私たちに示してくれたように感じます。そして、アメリカにおける多様性、つまり移民で入ってきた人たちが様々な文化をそこで育て、若草物語のような家族だけではない、多様な家族を形成し、そして、その中であらゆる意味での人間の多様性というものを大事に考えていくという文化を各々の多様性に満ちた移民たちが培ってきた。そしてその文学であるアメリカ文学、アメリカの児童文学を私たちは厳かに慎ましく、しかし別の谷に咲いた花として、私たちはめでたいし、愛したいし読みたい、この先生の言葉を私たちも慎ましく、でも厳粛に受けとめたいと思いました。




                   
第2回  7月6日(土 午前の部:10:00〜12:00  午後の部:13:00〜15:00
        

午前 歴史から学ぶ・絵本の魅力・その愉しみ方T
   
   
午後 歴史から学ぶ・絵本の魅力・その愉しみ方U
       子どもの本の移り変わりを見つめて
   


講師 吉田 新一(よしだ しんいち)
・1931 年東京生まれ。立教大学文学部英米文学科卒業、同大学院文学研究科修了。立教大学教授、日本女子大 学教授を経て、現在立教大学名誉教授。軽井沢絵本の森美術館名誉顧問。主な著書に『イギリス児童文学論』 (中教出版)、『コールデコットの世界』(福音館書店)、『絵本の愉しみ イギリスの絵本』上下(朝倉書店)、 訳書に『ビアトリクス・ポター』(テイラー著/福音館書店)、『ジョン・ギルピンのゆかいなお話』(ほるぷ出 版)他著訳書多数。


          
               
               講義中の吉田新一さん

           講座レポート

   
午前の部
歴史から学ぶ イギリス絵本の魅力・その愉しみ方T

      
・現代絵本の始まりはイギリスだったと思います、というところからお話が始まりました。 ランドルフコールデコットとケイト・グリーナウェイ、そしてウォルター・クレインが19世紀のほぼ同時期に3羽ガラスで出て来、そのほかに何人かいて、20世紀になってコールデコットが残した遺産を、全面的に拡大したのがビアトリクス・ポターです。ポターが今こんなに有名なのは、素晴らしい絵本を描いたのは間違いないが、レズリー・リンダ―さんというお金持ちがポターの日記を解読し、ポターのものを断片に至るまで私費で買い取って博物館に寄贈したために、作品が散逸せず残った、ということが大きいのです。 ランドルフ・コールデコットは16冊の本を残していますが、“Hey Diddle Diddle”と”Baby Bunting”の2冊に絞ってお話してくださいました。絵本作家が絵も物語も1人で作るというのはポターから始まったので、すでにあるテキストを使ってそこに絵を添える、という形がほとんど。コールデコットは主にマザーグース、バラッドなどをテキストとして使っていました。ケイト・グリーナウェイの“A Apple pie”、ウォルター・クレインの『赤んぼ自身のイソップ話』なども解説してくださいました。コールデコットの作品は余白が多いがクレインのは全面べったり描かれている。コールデコットは日本の浮世絵の影響を受けており、クレインは美術教育を前面に押し出した絵本作家で両極端。どちらがよい悪いではないが、その後のイギリスの伝統ではコールデコットの伝統が強い。 次にレズリー・ブルックの「仕立屋とカラス」。これは日本語訳がないが、バラッドで伝承の物語歌。こっけいな展開を本当に楽しく詳しく解説してくださいました。またウィリアム・ニコルソンの『かしこいビル』。これは絵と言葉が非常によく展開して、絵本史の中で一里塚の1つを形成するくらい有名な絵本です。 そしてポター。ポターの作品は30冊近くありますが、その3分の2くらいが“Once Upon a time”で始まる昔話スタイルです。一続きのおはなしとして『ピーターラビットのおはなし』と『ベンジャミン・バニーのおはなし』を、文章には出て来ない、絵だけから読み取れる内容までを解説してくださいました。 先生は1971年に初めてイギリスに行き、その時、自分の子どもが絵本に夢中になるのを目の当たりに見て、「どうしてこんなに、絵本に夢中になるのだろうか?」と考えて、その謎を解こうとしたことがこの世界に入るきっかけになったそうです。先生の絵本の解説は、私たちが見過ごしてしまっている所に気付かせてくださり、絵本の絵を読むとはどういうことかを教えてくださる楽しい講座でした。

午後の部
「歴史から学ぶ  イギリス絵本の魅力・その愉しみ方U」

午後は、20世紀、主に戦後の本で、まずは「子ども離れの本」の話から始まりました。「子ども離れの本」とは、いわゆるどの子も楽しめる、または子どもと一緒に楽しめる万人向けの本ではなく、一時期「子どもの本はどうあるべきか」という議論が盛んにされたそうです。まずはジョン・バーニンガムの『アルド・わたしだけのひみつのともだち』(ほるぷ出版)。この本も原題は『アルド』だけ。一般に欧米の本のタイトルは、シェイクスピアにしても『ハムレット』『リア王』『オセロ』のように固有名詞だけが圧倒的に多い。日本はそこに解説のように副題を付けているが、かえってその性格の1つだけに限定してしまっているのではないか、全部読んでみないと、その複雑な人間性は出て来ないのではないか、と話されました。また子ども離れの本については、「孤独で、内気な、自閉的な子どもにとっては、こういう作品が1つの精神的な拠り所になるのではないか、ですから、万人向けではないのですが、ある子どもにとっては、かけがえのない作品であるかもしれない」と。ほかにやはり、ジョン・バーニンガムの『おじいちゃん』、チャールズ・キーピングの『まどのむこう』を取り上げられました。ある意味子どもにとってはタブーである死の問題、嫉妬などマイナスのものも現実にはあるわけですから、そういうものにも手を伸ばす本があってよい、あるべきと思います。絵本の発展の中で、こういうものもあった、ということは記憶に留めておいてよいと思います、と。

午後は、次に日本ではあまり訳書のない、けれどもイギリスでは広く親しまれているシャーリー・ヒューズの本。亡くなられた灰島かりさんが、『絵本翻訳教室へようこそ』の中でも取り上げています。『ぼくのワンちゃん』(偕成社)は数少ない日本語訳の出ている本です。またALFIEのシリ一ズを紹介してくださいました。どれも幼い子向けのおはなしで、いかにもこんなことあるなというお話ばかり。子どもの特徴をよく捉えた絵で、心の微妙な違いを姿勢などで的確に表現している。日本であまり紹介されないのはどうしてなのだろうかと思う、と。

 またレズリー・ブルックの『金のがちょうのほん』(福音館書店)から「さんびきのくま」のおはなしを取り上げ、絵の中に描かれたしゃれや、作者の遊び、また文章には書かれていない登場人物の役割などを解説してくださいました。

 講座の中では、何度も笑いが起こり、絵本の楽しさを堪能しました。






3  831( 午前の部:10:00〜12:00  午後の部:13:00〜15:00
        

午前 ウォルター・クレイン
   
    現代の絵本の源流を求めて
午後 ビアトリクス・ポター
   
       絵本を創作し、自分の人生を生きた女性の物語

講師 正置 友子(まさき ともこ)
・1940 年名古屋市生まれ。1973 年青山台文庫開設。1994 年〜2000 年英国でヴィクトリア時代の絵本を研究。 2001 年ローハンプトン大学大学院に論文を提出し、博士号(PHD)を取得。2012 年〜2018 年、大阪大学大 学院にて哲学を研究。論文を提出し、博士号(学術)を取得。聖和大学教授を経て、現在、青山台文庫・絵本 学研究所主宰。著書に『A History of Victorian Popular Picture Books』『イギリス絵本留学滞在記』『メルロ・ ポンティと〈子どもと絵本〉の現象学』(風間書房)など多数。


             

              講義中の正置友子さん

            講座レポート

   
午前の部
「ウォルタ−・クレイン 現代の絵本の源流を求めて

・著書『イギリス絵本留学滞在記』には、「いくつになっても 学びと旅立ちを」の言葉を添えています。絵本は、この世に生まれてきた子どもたちが最初に出会い、人が命尽きるときまで出会い、人と人がその関係性のなかで、生きることの大切な意味を考え、分かち合い、伝え合うことができる、人の手で作りだした芸術であり、文化財です。その絵本が、どの様な歴史をたどって、現代の絵本が形成されるに至ったのか、その課程を知りたい。絵本についてもっともっと学びたいという思いが、54歳でのイギリスへの旅立ちとなりました。イギリスにいき早々に運命的な出会いをしたのが、美しいウォルタ−・クレインの絵本でした。そこから150年前のヴィクトリア時代の絵本の研究が始まりました。 ヴィクトリア時代のたくさんの貴重な本を紹介くださり、講師持参のル−ペを使用して、職人伎や細やかな芸術作品を拝見することが出来ました。  彫版師エヴァンズと絵師クレインとの出会い、「子どもたちには最高の絵本を」という思いが絵本のル−ツとなり、現代まで脈々と受け継がれ、私たちは至福の時間を持てていると感じました。

午後の部
ビアトリクス・ポタ− 絵本を創作し、自分の人生を生きた女性の物語

・ビアトリクス・ポタ−は優れた水彩画家であること。ボタニカル・ア−ティストであったこと。農業に従事し、牛と羊の飼育家であったこと。1800年〜1900年のはじめ、女性が社会でリ−ダ−的活動をすることなど考えられなかった時代に、自然保護活動の先駆者であったこと。ジュディー・テイラーさんは、非凡な女性作家をこう称しています。キリスト教プロテスタントの一派であるユニテリアン派であり、個人の良心を尊重し、社会を向上させるための一助として、合理的で理性的な討論や科学の応用を重んじている精神は、ビアトリクスの精神に深くきざみつけられました。 ビアトリクス・ポタ−については、『ピ−タ−ラビット』の作者としか知られていないかもしれませんが、人間も動物も自然も暖かく、かつシビアに観察し続け、絵本と自然を後世に残してくれました。 モ−リス・センダックは『センダックの絵本論』(脇明子・島多代訳 岩波書店)の中で、「このちっぽけな本が人生の実感を鮮やかに伝えていること」を言っています。このことは、「事実の要素と空想の要素とを想像力によって統合したからこそできたことです」と云っています。




  ウォルター・クレイン作の絵本などの当時の貴重な
 資料に見入る受講生





4回  9月21日(土)午前の部:10:00〜12:00  午後の部:13:00〜15:00
        

午前 日本の戦前・戦中・戦後の絵本
       あの頃、こんな絵本があった
午後 子どもたちと絵本を読むということ
       未来に生きる子どもたちへ

講師 正置 友子(まさき ともこ)
・1940 年名古屋市生まれ。1973 年青山台文庫開設。1994 年〜2000 年英国でヴィクトリア時代の絵本を研究。 2001 年ローハンプトン大学大学院に論文を提出し、博士号(PHD)を取得。2012 年〜2018 年、大阪大学大 学院にて哲学を研究。論文を提出し、博士号(学術)を取得。聖和大学教授を経て、現在、青山台文庫・絵本 学研究所主宰。著書に『A History of Victorian Popular Picture Books』『イギリス絵本留学滞在記』『メルロ・ ポンティと〈子どもと絵本〉の現象学』(風間書房)など多数。

   
                 
        

                          講義中の正置友子さん

                      講座レポート

   
午前の部
「子どもたちと絵本を読むこと −未来に生きる子どもたちへ−

50数年子どもたちと絵本を読んできました。とりわけ、乳幼児期の子どもたちとの絵本読みは、感動と喜びでした。このことは「なぜ生きているのか」「なぜ子どもたちと本を読むのか」という問いに繋がり、やがてメルロ=ポンティの哲学書『知覚の現象学』へと導かれることになりました。 子どもたちが育っていく過程を表す「ひとなる」と云う言葉があります。尾張出身の中野光は、「人成る」とは「人間の成長」「生育の課程」「育つと言うこと」を意味すると述べています。この言葉は、尾張・美濃・伊勢の北部の方言として残った言葉です。 自分で考え、責任を持って行動する。そして志を同じくする人たちとともに行動する人になって欲しいと望むなら、私自身もそうありたいので、学び続けます。 子どもと絵本を読むということは、大人である私が、未来に対する責任を感じ、行動していかなければならないということではないでしょうか。ただ絵本が好き、だから子どもたちに読んであげたいという気持ちだけでは、未来に生きる子どもたちは「ひとなって」いかないのではないでしょうか。 今回は、「子どもたちと絵本を読むということ」はどういうことであるかを考え、子どもたちと絵本を読み続けたいと願っているのならば、自分自身が未来のために学び続けなければならないと考えました。 未来ある子どもたちとともに、これからも絵本を読み続けたいと願っています。

午後の部
「戦前・戦中・戦後の絵本 −あの頃、こんな絵本があった− 」

・戦前・戦中・戦後の子どもの本を研究する切っ掛けは、2001年北海道文学館にて「プランゲ文庫展;占領下の子ども文化<1945−1949>展」を観て、プランゲ文庫に出会い、焼け跡時代と言われた占領期にも子どもの本が大量に出版されていたことを知ったからです。  1938年国家総動員法が可決され、同年「児童読み物改善に関する指示要項」が通達され、戦局により統制が加えられていった。「子どもの読み物は子どもたちにとっていいものでなくてはならない。俗悪なものは取り締まる」通達があり、1939年「児童絵本出版協会」、1940年に「日本出版協会」が設立し、自らが、時の権力に寄り添う状況をつくっていった。子ども向けの絵本も、子どもたちを戦争に仕向けていく内容となっていきました。  戦後を迎え、GHQがやってきて、日本は占領下に置かれた。1945年から1949年までGHQは検閲を行い、検閲期間が終了したときプランゲ博士は、この検閲資料は非常に貴重な資料なので保存すべきと考え、メリ−ランド大学の図書館に送った。これが約10万点の資料のプランゲ文庫です。  今回、歓びと成る絵本の紹介ではなかったが、本当にこのように悲惨な子どもの本が、出版されていた時代があったこと。その時代は、突然にやってくるのではなく、準備された上でやってくるのです。現在、地球規模的情報が、大量に多用に放出されている時代にあって、時代や社会が見えにくくなっています。私たちは、歴史的な縦軸と環境的な横軸の中で、仲間達と共に学び続け、自分の立ち位置を確認し、希望の松明、未来へと本を手渡す人でありたいと願っています。



          

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