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子どもに読書のよろこびを


2017

アジアの子どもの本  

                                      



1  6月17日(土) 午前の部:10:00〜12:00  午後の部:13:00〜15:00
        ※初回は、9:50から開会式をおこないます。

午前 韓国の子どもの本の特質とその歴史
      激動の韓国近現代史と児童文学・絵本

   

午後 韓国絵本の魅力と出版背景
      
韓国の絵本作家と出版人の人生と思想
   


講師 大竹聖美(おおたけ きよみ
埼玉県生まれ。白百合女子大学大学院修士課程児童文学専攻修了後、日韓文化交流基金訪韓フェロー、大韓民国政 府招聘留学生として 6 年間韓国で学ぶ。韓国児童文学の研究と翻訳。東京純心大学現代文化学部こども文化学科学 科長、教授。著書に『植民地朝鮮と児童文化』(社会評論社)、訳書にシリーズ「韓国の絵本 10 選」(アートン新社) 『とらとほしがき』『ハンヒの市場めぐり』(光村教育図書)『非武装地帯に春がくると』(童心社)など多数。


講義中の大竹聖美
 
講座レポート

 
午前の部
「韓国の子どもの本の特質とその歴史
    激動の韓国近現代史と児童文学・絵本」

・韓国の昔話といえば、とらとトッケビ。こどものともの『トッケビとどんぐりムク』(福音館書店)のトッケビがそれ。お酒が好き、お相撲が好き、基本的にまぬけ、いいことをした人に福を与え、悪い人には罰を与えるが、心の中にはあたたかいものを持っている。『とらとほしがき』(光村教育図書)は代表的な昔話。なかにでてくる「アイゴー」とは、感情的な表現なので、「わー」「びっくりした」「たすけてー」など喜怒哀楽がすべて入っている。
2004年、アートンからシリーズ「韓国の絵本10選」が出版された。このころの韓流ブームにのって、出版社は好意的だった。しかし、日本での翻訳冊数はここ年々少なくなっている。
韓国国内では1990年代盧泰愚(ノテウ)大統領・金泳三(キムヨンサム)大統領の頃から絵本の出版が始まる。韓国で初の単行本創作絵本、リュウ・チェスウ作『白頭山物語』が出版(1988)その後、日本で初の翻訳版韓国絵本『山になった巨人〜白頭山ものがたり』が福音館書店より出版(1990)
また韓国で『ソリちゃんのチュソク』『マンヒの家』『おいしいよ!はじめてつくるかんこくりょうり』『くらやみの国からきたサプサリ』が出版され、韓国における創作絵本出版文化が軌道に乗る(1995)。廬武鉉(ノムヒョン)大統領、李明博(イミョンバク)大統領の時代の2010年以降、岩崎書店から韓国の文化を知る絵本のシリーズが出ている。『天女銭湯』(ペク・ヒナ作 長谷川義文訳 ブロンズ新社)のペク・ヒナは今韓国で一番人気の作家。新しい世代の海外に留学していた作家たちが活躍し始める。韓国では絵本も童詩もシリーズで出版される。『しろいはうさぎ』『ことりはことりは木でねんね』などは有名な詩人の詩を絵本にしたもの。『チャジャン歌―韓国子守唄』は韓国の子守唄を集めている。


午後の部
「韓国絵本の魅力と出版背景 
    韓国の絵本作家と出版人の人生と思想」


・ 日中韓平和絵本シリーズ等、パワーポイントを使って、わかりやすく話してくださった。
『非武装地帯に春がくると』(絵・文 イ・オクベ 大竹聖美訳 童心社)
北と南は休戦状態。世界で一番地雷の埋まっている土地。
『とうきび』(詩 クォン ジョンセン 絵 キム・ファンヨン 大竹聖美訳 童心社) 
朝鮮戦争をえがく。平和絵本といっても、日本とは随分違う。今に至る今の問題。
1994〜95年に韓国絵本が本格的に動き出した。
海外に留学していた人たちが、絵本を作り始める。
韓国は大統領によって、出版の状況も変化する。
ハングルは表音文字でひらがなやABCと同じ、ハングル語とは言わない。
あらゆる音声がこれで表現できる。
韓国の現代の絵本は海外でも人気がある。





2  78() 午前の部:10:00〜12:00  午後の部:13:00〜15:00
        

午前 中国の子どもの本 3 億人の子どもが何を読んでいますか
   

午後 日本の子どもの本 福音館書店編集現場で 30 年
   
   


講師 唐亜明(たん やみん)
・北京生まれ。記者・編集者を経て、1983 年来日、福音館書店に入社。早稲田大学卒業、東京大学大学院博士課程満 期退学。福音館書店編集長、大学非常勤講師。自伝的著書に『ビートルズを知らなかった紅衛兵』(岩波書店)。『翡 翠露』(阪急コミュケーションズ)で開高健賞奨励賞、『ナージャとりゅうおう』(講談社)で講談社出版文化賞絵本賞、 『西遊記』(講談社)で産経児童出版文化賞受賞。訳書に皇后美智子様の『橋をかける』など著訳書多数。
´              


講義中の唐亜明
 
講座レポート

 
午前の部
「中国の子どもの本 3億人の子どもが何を読んでいますか」


・唐さんは大柄な方で、終始ゆったりした語り口調で丁寧に話してくださいました。
1982年に中国を訪れた松居直さんご夫妻、赤羽末吉さん、小澤俊男さん、君島久子さん他の日本の子どもの本代表団の通訳として仕事をしたことがそもそもの始まりだったそうです。それも本来の通訳がたまたま風邪をひいて、そのピンチヒッターとして、日本語の練習のつもりで行ったので、子どもの本に関わる仕事をするつもりなど、全然なかったと。
   松居さんに福音館に来ないかと誘われ、日本に行けるなら、というくらいの気持ちでいらしたとか。1983年来日した時は、日本の出版社の正社員で第1号の外国人だったそうです。
 それから30年余。唐さんの編集した絵本の一覧を見ると、「えっ!?この本も?これも?」というくらい私たちが目にしている本が多いのに、驚きました。パワーポイントを使いながら、たくさんの本を紹介してくださいました。
   まず長く読み継がれている『しんせつなともだち』(方軼羣(ファンイチン)作、村山知義画)。この文章を書いた方さんは、朝鮮戦争中、中国の軍隊を訪ねた時、まさにこのお話のかぶのように差し入れのお菓子が次々と中隊、小隊と回り、ついに元の中隊に戻ってきたというお話を聞き、これを童話に書いたそうです。子どもたちがこのお話をすごく好きなのは、頭で考えたお話ではなく、戦争中でも国が違っても人間の普遍的・基本的な優しさを表しているからではないだろうか。
 『よあけ』(シュルヴィッツ作)はどこにも中国という言葉は出てこないが、唐時代の柳宗元の漢詩を元にしていると言って、漢詩を中国語で読んでくださいました。
 また、唐亜明著『森のパンダ』(木下晋 絵、講談社 2017年6月発売)、『なみだでくずれた万里の長城』(蔡皋 絵、岩波書店)、唐さんが編集された『富士山うたごよみ』(俵万智 短歌・文、U.G.サトー 絵)などを、パワーポイントで絵本を映し出しながら、読み、本にまつわる興味深いお話を聞かせてくださいました。
 また中国では10年くらい前から絵本ブームで、まだまだこれから。日本の本は中国では海外の中で1番翻訳されている、などのお話もありました。


午後の部
「日本の子どもの本 福音館書店編集現場で30年」

・ 午後は唐さんが編集した本の中から、やはりパワーポイントで絵を映し、読み聞かせを入れながら、まず1冊目が『ひとりになったライオン』(夏目義一 文・絵)。リアリズムの絵は科学の本と思われやすいが、リアルの手法でおはなしの本が作れないかと考えてできたのがこの本だそうです。
次に『むかし日本狼がいた』(菊地日出夫 文・絵)、これは作者の菊地さんのおばあちゃんのおばあちゃんから聞いた話ということでした。
   また『トヤのひっこし』(イチンノロブ・ガンバートル 文、バーサンスレン・ボロルマー 絵)、『ふるさと60年』(道浦母都子 文、金斗鉉 絵)、『ボタ山であそんだころ』(石川えりこ さく・え)などを紹介してくださったあたりで、午睡の誘惑に皆さんがかられて来たと見るや、『特急おべんとう号』(岡田よしたか/さく・え)を読んでくださったところ、大爆笑でみんな目がパッチリ。絶妙なタイミングでした。
『ぼくがうまれた音』(近藤等則 文、智内兄助 絵)、『鹿よ、おれの兄弟よ』(神沢利子 作、G・D・パヴリーシン 絵)の紹介もあり、パヴリーシンさんに絵を描いていただくまでの苦労話など興味深く聞きました。
   絵本は、今の体験不足の子どもたちが絵本で人生や生活を体験できるもの、というお話や、絵本は大人が読んで子どもが絵を見るのが理想、というお話など、各所にハッと思わせられる言葉がいくつもある講座となりました。



3  722() 午前の部:10:00〜12:00  午後の部:13:00〜15:00
        

午前 アジアの絵本について 各国の作品から見られる絵本文化
   

午後 世界の絵本の現在 国際原画展審査員を通して見えてきたもの
   


講師 広松 由希子(ひろまつ ゆきこ)
・1963 年米国・LA 生まれ。大学卒業後、編集者、文庫主宰、ちひろ美術館学芸部長を経て 2000 年よりフリ−となる。 絵本の評論、執筆、翻訳、展示企画などを行う。ボロ−ニャ国際絵本原画展、ブラティスラヴァ世界絵本原画展、 ナミ・コンク−ル(韓国)などの国際審査員を務める。著書に『きょうの絵本あしたの絵本』(文化出版社)、訳書 に『はしれ、トト!』(ウンヨン作、文化出版局)『あかいはねのふくろう』(オラル作、復刊ドットコム)など多数。



講義中の広松由希子
 
講座レポート

 
午前の部
「アジアの絵本について」
−各国の作品から見られる絵本文化−


・世界から取り残されている子どもたち。そう言われているアジアの子どもたちがどの様な絵本を手に出来ているのか?小学校にも通えていない子どもが1億2000万人も存在しているアジアの国々。絵本文化を、北東アジア、東南アジア、南アジア、南西アジアに分類して、それぞれの国の実情を話して下さいました。
  ヒマラヤ山脈に自生している植物を描いた『せいたかだいおう』、韓国の競馬場の話『はしれ、トト!』、トルコの作家オラル氏作の『あかいはねのふくろう』などの著書や作家との関わりや交流の様子などを小気味良いてんぽで話されました。 続いて、日本で出版されている絵本の紹介となりました。イランの『ごきぶりねえさんどこいくの』・インドの『夜の木』・韓国『こころのいえ』・中国『パオアルのきつねたいじ』の紹介。その後、日本でも多く読まれているモンゴル地方の『ス−ホの白い馬』、ネパ−ルの民話『プンクマインチャ』や、戦争中でも明るく生きるアフガニスタンの人々を描いた『せかいいちうつくしいぼくらの村』、36カ国の子どもたちの暮らしを写真絵本にした『世界の友だち』などの絵本を紹介していただきました。
  これらの絵本に触れることにより、アジア他国の現状などを知る事が出来ました。全ての子どもに行き渡ってはいないけれど、一生懸命子どもに本を手渡すための活動が行われていること、アジアは女性が頑張っているということも知ることが出来ました。


午後の部
「世界の絵本の現在」
−国際原画展審査員を通して見えてきたもの−


・ 1960年代半ばより絵本の技術が認められ、言葉を超えた国際交流として、1967年ボロ−ニャとBIBの絵本原画展が開催されました。
広松さんは、ボロ−ニャ国際絵本原画展、ブラティスラヴァ世界絵本原画展、野間コンク−ル(ナミコンク−ル)に国際審査員として関わっていらっしゃいます。それぞれ原画展の特色や審査方法など、当事者より拝聴でき、今後の原画展を鑑賞する際、絵に対する視点や、理解度が深まるかも知れないと思いました。
  ボロ−ニャ国際絵本原画展は、毎春開催され、グラフィックデザイン・ブックデザインとして優れた児童書に贈られる図書賞です。16歳以上の世界のイラストレ−タ−が応募した作品を、5人の審査員で受賞作品を選んでいます。最近では、韓国・中国・台湾等アジア諸国の目覚ましい発展に対し、日本は後退ぎみであるとのことでした。
  BIB(ブラティスラヴァ世界絵本原画展)は、刊行された絵本の原画を対象とし、文章については選考対象としないとしています。1967年プラハの春と呼ばれた年より2年に一度開催し、15人の審査員で受賞作品を選んでいます。今年50周年を迎え大規模な原画展を展開しました。
  ナミ・コンク−ル(南怡島国際絵本イラストレ−ション・コンク−ル)は、野間国際絵本原画展16th終了後、アジア太平洋(日本は除く)・中南米・アフリカ・アラブ地域の作品発表に恵まれないイラストレ−タ−や画家を応援することを理念として、2013年より、2年に一度開催し、15人前後の審査員で受賞作品を選んでいます。
  世界の絵本を当たり前に手にしている日本。出版社の存在しない国がある中、絵本は国境を越えられるのか?日本の絵本はどこを目指していくのか課題も山積みです。





4  8月19() 午前の部:10:00〜12:00  午後の部:13:00〜15:00
        

午前 モンゴル草原に生きる人々 自然、暮らし、子ども
   
午後 モンゴルの子どもの本
          児童文学作家ダシドンドグの移動図書館の周辺から

講師 宇田 祥子(うだ さちこ)
・鳥取県生まれ。東京都で小学校教師を 26 年間勤める。『スーホの白い馬』の授業を通して、モンゴルに魅せられ、 たびたびモンゴルを訪れる。1994 年〜1995 年、内モンゴル師範大学日本語科講師。1999 年〜2005 年、モンゴル 国立教育大学で日本語夏期講座を行う。2005 年モンゴル国文部科学省より教育功労賞受賞。地域では「おはなしブ リュッケン」「しまねブックトーク研究会」代表を務め、子どもと本を結ぶ活動を行っている。松江市在住。 1



講義中の宇田祥子
 
講座レポート

 
午前の部
「モンゴル草原に生きる人々」
−自然、暮らし、子ども−


・宇田さんはまず、モンゴルという国を紹介されるのに、司馬遼太郎の『草原の記』の一文を読んでくださいました。「モンゴル草原は空にちかい、空と草だけでできあがっている。人々はじかに馬に乗り風のように駆け、満月のように弓を引きしぼりながら、走りながら矢を放つ」(抜粋)モンゴルへの興味が一気に膨らみました。成田から5時間半東に飛ぶと、山脈と草原と空の国があることを、私たちは知っているようで、よくは知らなかった。人々は、ゲルという移動式住居に住み、徹底した自己完結型の生活を営み、優れた五感を使って自由で誇り高く豊かな遊牧生活を送っている。13世紀初頭までは文字もなく、口承文芸こそが文学であり、楽しみであった。子どもたちはゲルの中で、何時間も詩や昔話を聴いて過ごす。宇田さんは、20数年間毎年モンゴルを訪れ、その体験の中から、草原に生きる人々の様子を、目の前にありありと見せてくださいました。
私たち受講生は、午前の講座が終わるころには、皆モンゴル草原に立って、馬頭琴の音を聴いているような錯覚に陥りました。


午後の部
「モンゴルの子どもの本」
−児童文学作家ダシドンドグの移動図書館の周辺から−


・ 午後の部では午前の講座を踏まえたうえで、モンゴルの子どもの本や読書環境、それからモンゴルのすみずみまで移動図書館で子どもたちに本を届けて生涯を送った児童文学作家ダシドンドグさんのお話をしていただきました。「本は子どもを幸せにします。子どもが幸せな社会は、ほんとうの幸せな社会です」というダシドンドグさんの言葉の通り、移動図書館が来て、子どもたちはラクダに乗って本を読んでいる姿や、ヤギが後ろから覗いている姿など、子どもが本と出合う喜びの原点の様な写真を見せていただきました。また、モンゴルで出版されている日本の本や外国の本などをたくさん貸してくださり、比較展示することができました。粗末な製本に、モンゴルの出版事情を直接手に触れて理解することができました。ダシドンドグさんは詩集も多く出版されています。『お父さんお母さんぼく』の詩の朗読をCDで聴かせてくださり、国を問わず言語を問わず、心に響いてきました。モンゴルの子どもの本の出版環境はまだまだ途上ですが、子どもの本の価値を認め、出版しようとしてい
る出版社も少しずつ出てきているそうです。ダシドンドグさんの「いい本は届けなければならない」という言葉を、宇田さんが宇都宮に来て私たちに届けてくださいました。






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