第3回 8月23日(土) 午前の部:10:00〜12:00 午後の部:13:00〜15:00
午前 オランダとベルギーの子どもの本
午後 私の出会った作家たち
講師 野坂悦子(のざかえつこ)氏
・野坂悦子(のざかえつこ)
東京都生まれ。早稲田大学文学部英文科卒。1985年から5年間オランダとフランスで暮らし、現在は翻訳家として活躍。特にオランダとベルギーの児童文学紹介に力を注ぐ。訳書に『おじいちゃんわすれないよ』(金の星社・産経児童出版文化賞大賞)、『第八森の子どもたち』『ネジマキ草と銅の城』(福音館書店)、『レアの星』(くもん出版)、『フランダースの犬』(岩波書店)ほか多数。創作絵本『ロロとレレのほしのはな』(小学館)で作家活動も始める
本を紹介してくださる野坂先生。 終了後のサイン会の様子。
〈午前の部〉
オランダとベルギーの子どもの本
最初に、ご自身のオランダでの「出産時」の話。今まさに生れようとしている時に分娩室でお産用の椅子を使うかどうか、本人の意思表示を確かめられた。本人にとってはそれどころではない時でさえ、個人の自主性が重んじられる。それがオランダという国。
『とくべつないちにち』(イヴォンヌ・ヤハテンベルク/講談社)にもオランダの神髄が表れている。初めて幼稚園に行って不安な子どもに、先生は「まず自分自身を好きになって。自分を大切にしなさい」と説く。「個」の尊重がオランダの子どもたちの幸福感を押し上げているのではないか、とオランダの根っこを紹介。
対しベルギーはオランダに比べると学校のスタイルなども日本に似ているし、ベルギー人は日本人的な控えめなところがあるそうだ。
『あかいほっぺた』(ヤン・デ・キンデル/光村教育図書)では「いじめ」がテーマで日本の学校の中と同じような子どもたちの葛藤が描かれている。一人が勇気を出していじめが収まる様は、どの国の子どもたちも自分自身の物語として受け止めるのではないか、と思った。
オランダ・ベルギーの大まかな概要の説明。オランダのキンデルデイクに伝わる話やベルギーのアントワープに伝わる話などそれぞれに興味深いお話もあった。
オランダとベルギーの子どもの本の歴史は、18世紀から20世紀まで主なものを紹介してくださった。
オランダ独自の子どもの本の活動として「全国音読コンテスト」というのがあり、それぞれの地域から勝ち抜いた10数名の初等教育最終学年の子どもたちが、5分間で本の紹介と好きな一節を音読。TV放映もされているとか。他に「全国読み聞かせの日」という0歳から6歳児対象の活動もあるとか。
おまけの「おいしいオランダ」のお話も楽しかったですよ。
〈午後の部〉
私の出会った作家たち
まず、講談社編集者の山田さんと組んでのお仕事『バロチェのなつやすみ』『アルノとサッカーボール』(イボォンヌ・ヤハテンベルク)の話から午後がスタート。
「アルノ」では、著者と話し合い、テキストの内容を少し変えて翻訳してあるし、『でも、わすれないよベンジャミン』(エリーネ・ファン・リンデンハウゼン絵)では、版元の出版社と掛け合って絵の背景を抜いてもらった。「翻訳は原著者の理解が得られれば訳者の意思を入れてもらえる事もある」との秘話も披露されました。
オランダ絵本界の双璧 ブルーナとベルジュイスの紹介。ブルーナは「うさこちゃん」を通して日本では知らない人がいないほど有名。マックス・ベルジュイスはオランダで初めての国際アンデルセン賞画家賞受賞者(「かえるくんシリーズ」(セーラー出版)など)。そして第3の巨人として、挿絵画家テー・チョン・キンさんを紹介(『きつねのフォスとうさぎのハース』(岩波書店)など)。それからそれから『おじいちゃんわすれないよ』のハルメン・ファン・ストラーテンさん、「ケープドリ」のワウター・ヴァン・レークさん、「リッキ」のヒド・ファン・ヘネヒテンさん、と次から次へと作品と作家の紹介がありました。その総ての作品と作家が好きで好きでたまらないという情熱のこもった紹介でした。
翻訳の仕事を通して「ここではないどこか」の世界を紹介してくれました。
※詳しい講座報告は、会報「ダンボのみみ 23号」に掲載される予定です。
《受講生アンケートより》
本は、その国のカラーが出るとものだと、毎回感じています。内容にも時代や歴史の影響が強く表れるし、表紙にもその傾向が現れるんですね。
国民性の違いや、オランダの「個」を尊重すること、うらやましかったです。
身近な視点から先生の生き生きとした言葉で、両国の今を知ることができました。
翻訳本を作る際の苦労、原書との違い、子どもへの敬意、心に響きました。
オランダの国民性「子どもに対する敬意」、説教臭くなくすがすがしい読後感がありました。
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第4回 9月13日(土) 午前の部:10:00〜12:00 午後の部:13:00〜15:00
午前 アニー・M・G・シュミットとオランダ
午後 トンケ・ドラフトを中心に
講師 西村由美(にしむらゆみ)氏
・西村由美(にしむらゆみ)
福岡県生まれ。東京外国語大学英米語学科卒。1984〜86年にかけてオランダに在住。帰国後、外務省研修所などでオランダ語を教えるとともに、オランダ・ベルギーの文学作品の翻訳に携わる。訳書に、テア・ベックマン『ジーンズの少年十字軍』、トンケ・ドラフト『王への手紙』『白い盾の少年騎士』(以上、岩波書店)、アニー・M・G・シュミット『ネコのミヌース』(徳間書店)、『イップとヤネケ』『ペテフレット荘のプルック』(岩波書店)など。
オランダでの生活を語る西村先生 地図をみると、物語の世界に想像が膨らみます。
〈午前の部〉
トンケ・ドラフトを中心に ――物語の魅力と背景――
オランダは九州よりやや大きい土地に、1,680万人が暮らす世界一人口密度の高い国ですが、訪れてみると低い丘に緑が広がる国土で、人が多い感じはせず、人々は開放的な家を綺麗に飾って、おおらかに暮らしている印象があります。
アニー・M・G・シュミットは、オランダで最も有名な児童文学作家です。彼女の作品が無い家は無いと言われるほどで、没後も繰り返し再販されています。シュミットは第二次世界大戦中ナチスドイツの占領下でも、図書館長として支配に屈しなかったという経験がありました。戦後レジスタンス新聞の資料部に配属されたことが、詩集『笛吹きケテル』や『イップとヤネケ』を連載するきっかけとなります。親に反抗的で、何をやっても長続きしなかった思春期でしたが、この新聞社で多くの才能ある人々と出会い、作品が次々に発表されました。『アーベルチェの冒険』は始めての長編で、エレベーターで世界を旅するお話です。オランダ人の主食がジャガイモであることや、綺麗好きであることなど、オランダの生活を知っていると更に物語を楽しむことができます。その後、1988年には国際アンデルセン賞を受賞します。
また、パウル・ヴァン・ローンの「オオカミ少年ドルフィ」シリーズは、今オランダの子ども達に最も支持されています。イラストやタイトルで先入観を持たず、ぜひ読んでいただきたい作品です。作品に通底する「ありのままでいいんだよ」というオランダらしい寛容の精神が描かれています。
写真や経験談で、オランダの生活がよくわかるご講演でした。「オオカミ少年ドルフィ」シリーズは、まさにタイトルとイラストでひいてしまっていました。子どもに本を手渡す者として、とても恥ずかしく思いました。先生の気持ちがこもった訳本を、おおらかな気持ちで、楽しく読みすすめていきたいと思います。
〈午後の部〉
私の出会った作家たち
後は、トンケさん(西村さんは親しみを込めてこう呼びます)の生い立ちから始まりました。ジャカルタで生まれたトンケさんは、12歳から15歳まで母や妹たちとともに日本軍女性収容所で過ごしました。そのとき、お話を作り、語ることで辛い収容所生活を耐えたのです。トンケさんの作品には、捕えられ逃げ出す主人公が描かれています。それは収容所時代の自由への希求であったのでしょう。
また、ふたご(多面性)のモチーフもよく使われます。相反する性格は、作家であり、画家、イラストレーター、コラージュ作家、ドールハウス作家などトンケさん自身の多面性がうかがわれます。たくさんの切手で飾られている手紙や、太陽系第三惑星から書かれている宛名、電話をかければロボットのクサンティッペが応答するといった遊び心あふれた様子を、写真を交えてお話下さいました。『王への手紙』の主人公ティウリという名前は、オリジナルであったとは驚きです。
オランダとベルギー・オランダ語圏のYA文学も紹介していただきました。ティーン向け歴史小説であるテア・ベックマン『ジーンズの少年十字軍』。抜群の知名度を持つバルト・ムイヤールト『調子っぱずれのデュエット』。そして、ヤン・デ・レーヴ『15の夏を抱きしめて』。
トンケさんをはじめ、西村さんに選ばれ丁寧に翻訳された作品たちに出会えて、とても楽しい講座でした。最後に、HUISWERK(宿題)として、クイズ☆トンケ・ドラフト☆のプリントが配られました。オランダで開かれた〈トンケ・ドラフト・デイ〉で参加者が楽しんだクイズです。1、2度読んだだけでは答えられず、『王への手紙』『白い盾の少年騎士』『ふたごの兄弟の冒険』『七つのわかれ道の秘密』を熟読して、もう一度挑戦しようと思いました。
※詳しい講座報告は、会報「ダンボのみみ 23号」に掲載される予定です。
《受講生アンケートより》
オランダの暮らしや文化、食生活などが良くわかり、興味を持ちました
丁寧なお話で、先入観にとらわれずに、自分の目で確かめて欲しいという言葉が心に残りました。
オランダの質素な食生活、主婦には楽でいいなと思いました。
オランダの本を読むには、オランダのことを知らなければ、本当に楽しめないことが良くわかりました。
オランダの生活や考え方が、写真と共に伝わりました。
先生の翻訳本もとても読みやすくわかり易い文章でしたが、お話もとても楽しく、あっという間の2時間でした。
「王への手紙」特に上巻は怖くて読み終えるまで本を置けませんでした。そのわけが、トンケさんの生い立ちからきていると納得しました。 |
先生が持ってきてくださった本や小物・・・
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