栃木子どもの本連絡会は、
未来に向かって成長する子ども達を支え、
本のつなぎ手として子どもの本をより深く学ぶために、
過去様々な講座を開催してきました。
1995年から2009年まで25年に渡り、
「栃木子どもの本サマースクール」が開催されました。
※アーカイブ参照のこと
その後、形態を変えて会員に勉強の機会を
残すことはできないだろうかという思いから、
2010年「栃木子どもの本連続講座」が生まれました。
第1回「イギリスの子どもの本」から始まり、
2022年に開催された第10回「日本の子どもの本」まで、
そうそうたる講師陣をお迎えすることで、
県内外のたくさんの方々に受講して頂きました。
その多彩なテーマもこちらでご覧いただけます。
※栃木子どもの本連続講座参照のこと
そして、
さらなる学びの機会を提供したいという思いから,
2023年よりあらたに
「栃木子どもの本の講座」を開催いたします。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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第1回 7月15日(土) 午前の部:10:00〜12:00 午後の部:13:00〜15:00
※初回は、9:50から開会式をおこないます。
午前
現代絵本の表現とテーマの多様化)
午後
講師 松本 猛(まつもと たけし)氏
・1951年生まれ。美術・絵本評論家、作家、横浜美術大学客員教授、ちひろ美術館常任顧問。1977年にちひろ美術館・東京、97年に安曇野ちひろ美術館を設立。同館館長、長野県立美術館館長、絵本学会会長を歴任。著書『いわさきちひろ』(講談社)『ちひろ美術館の窓から』(かもがわ出版)『安曇野ちひろ美術館をつくったわけ』(新日本出版社)、絵本に『白い馬』(講談社)『ふくしまからきた子』(岩崎書店)など。940 年名古屋市生まれ。1973 年青山台文庫開設。1994 年〜2000 年英国でヴィクトリア時代の絵本を研究。 2001 年ローハンプトン大学より博士号(PHD)を取得。2012
年〜2018 年、大阪大学大学院にて哲学を研究。博士号(学術)を取得。聖和大学教授を経て、現在、青山台文庫・絵本 学研究所主宰。著書に『A History
of Victorian Popular Picture Books』『イギリス絵本留学滞在記』『メルロ・ ポンティと〈子どもと絵本〉の現象学―子どもたちと絵本を読むということ―』(風間書房)など。現在、『生きるための絵本』(仮題)執筆中。
松本猛さん
講座レポート
午前の部
・現在、絵本はものすごく速いスピードで変化している。電子書籍やスマートフォンで見る絵本は、「絵本」とは異なる。それでは、「絵本とは何か」「どういう表現形態なのか」。これらのテーマについて、図鑑、画集、雑誌、マンガなどを比較しながら解説いただきました。
また、絵本は絵を読むもので、絵で描かれているものから描かれていないものを、いかに感じ取るかが大切になる。絵のいろいろな詳細部分までを見ることも大切だが、同時に、五感を最大限に働かせながら読み解くことで、多くのことを想像し物語を感じることができるようになる。
読者は五感を働かせることで、見えない音や光、風、時間、香りなどを感じ、読み深めることが必要で、そうすることで、さらに豊かな世界が見えてくるということも教えていただきました。
午後の部
・多くの絵本は、ことばを覚えさせるための道具として認識、活用されていたため、文字を覚えたら卒業しなければならないと考えられていた。しかし、安野光雅や赤羽末吉、いわさきちひろ、谷内こうたなどの作家や、松居直(福音館書店)や佐藤英和(こぐま社)、武市八十雄(至光社)などの編集者が、絵本を表現のジャンルとして認識し、自由な絵本を作った。また、童話や児童文学に絵をつけることでも絵本は発達した。絵本は絵の本の中に文字を組み込んだものだともいえるが、宮沢賢治の絵本は、完成した文章に絵をつけた例である。
絵本では、絵では時間や音などの表現はできず、間接表現の多くを絵で描いている。さらに、ことばの後に絵を使うことにより、音を響かせながら絵を展開することもできる。
また、ことばから思い描く風景は1人1人違うが、ことばと画像が合わさった瞬間に、ことばが絵の音になり視覚印象を強調することもできるし、絵に描かれていない世界を見せることもできる。さらに、背景の色で、登場人物の心の動きや感情などもあらわすこともできる。たくさんの本をご紹介いただきながら具体的な特徴をお示しくださり、また、さらに深く絵本を読むための、多くの気付きをご教示いただきました。とても有意義な講座でした。
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第2回 8月10日(日) 午前の部:10:00〜12:00 午後の部:13:00〜15:00
午前
私が出会った世界の絵本画家たち
午後
講師 松本 猛(まつもと たけし)氏
講義中の松本猛さん
講座レポート
午前の部
・前回の振り返りから始まりました。昔の絵本は、文章が先にあってそこに絵を付ける挿絵的なものだったが、文章の具体化ではない絵だったり、絵が先にあってそれに文を付ける絵本も出て来た。
子どもの心の喜びを創り出すのが絵本の本質だ、と福音館書店の松居直さんは語っている。そうして大人をも感動させる優れた絵本がたくさん出た。アメリカの1930〜50年代の絵本の黄金期に出た本を追って、日本でも岩波子どもの本、福音館書店のこどものともなどが出て来た。
絵本が語れるものは、たくさんある。1つは歴史。インノチェンティ作『百年の家』。西村繁男作『日本の歴史』など。また、戦争と平和も題材となっている。早乙女勝元文、田島征三絵の『猫は生きている』。いわさきちひろ作『戦火のなかの子どもたち』。『まちんと』(松谷みよ子文/司修絵)他。核と原発を描いた絵本に、『はしれ、上へ!−つなみてんでんこ−』(指田和文/伊藤秀男絵)、『ふくしまからきた子』『ふくしまからきた子−そつぎょう』(松本猛作/松本春野絵)。また全く違う切り口から描いたのが『あさになったのでまどをあけます』(荒井良二作)。貧困をえがいた絵本に『じゃがいも畑』(カレン・ヘス文/ウェンディ・ワトソン絵)、差別を描いた絵本に『わたしいややねん』(吉村敬子文/松下香住絵)、『はせがわくんきらいや』(長谷川集平作)、『ゆきのひ』(キーツ作)、『橋の上で』(湯本香樹美文、酒井駒子絵)など。生と死、老いを描いた絵本に『おじいちゃん』(バーニンガム作)、『だいじょうぶだいじょうぶ』(いとうひろし作)など。
いろんな形で、新しいタイプの挑戦が行なわれている。素材として子どもがあるが、子どもだけでなく、同時に大人にも語りかけている。子どもがいて語れること、子どもがいた方が語れることもたくさんある。子どもも大人も共有できる。自らの言葉を大人の言葉として語っている、というお話でした。絵本のできることの奥行きの広さと深さ、またそれを選んで私たちが子どもたちに絵本を届けることの難しさも同時に感じられた講座でした。
午後の部
・午後の部は、午前の「絵本が語れるもの」の続きから始まりました。自然と地球環境をテーマにした絵本。「14ひき」のシリーズ(いわむらかずお作)は、自然環境保全の意識がベースにあり、同時に人間は自然の中の一部だという思想をこの中で語っている。村上康成は釣り師で、自然の中にいることが好きで、人間も自然の一部だと実感している人。『ピンク!パール!』では、ダムの問題を提起している。ほかにも地球環境、自然保護を訴えている絵本はたくさんある。
次に、松本猛さんが、出会った世界の絵本作家についてもお話してくださいました。松本さんは、多くの絵本作家と直接接していて、どの方についても、語ることがたくさんあり過ぎて、時間が足りないくらいでした。そもそもちひろ美術館開設当時、絵本の絵が、美術館に展示する芸術性のある絵として扱われていなかった、また原画の扱いや保存も十分でなかった。それなら自分で美術館を作るしかない、と思って作ったのがちひろ美術館。それなので、多くの絵本作家が賛同して、可愛がってもらった。その中から、長新太、エリック・カール、モーリス・センダック、ビネッテ・シュレーダーなどなどの絵本作家との出会いと交流のエピソード、またその人となりなどを話してくださいましたが、もっともっと聞いていたいと思いました。
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第3回 9月10日(日) 午前の部:10:00〜12:00 午後の部:13:00〜15:00
午前 いまの絵本、いまの子どもたち
午後 絵本の庭から、物語の森・知識の海へ
講師 護得久 えみ子(ごえく えみこ)氏
・筑波大学第二学群生物学類卒業。2005・2006年に、東京子ども図書館研修生として学
び、2007年より同館職員。資料室や児童室の運営のほか、ブックリスト『絵本の庭へ』
『物語の森へ』『知識の海へ』(児童図書館基本蔵書目録1〜3)、『今、この本を子ど
もの手に』『よみきかせのきほん』の編纂に携わる。2020年4月から2023年3月まで、
福音館書店「母の友」で「子どもの本の図書館から」を連載。
講義中の護得久えみ子さん
講座レポート
午前の部
「いまの絵本、いまの子どもたち」
・講師の護得久先生は、「子どもとに読書のよろこびを」と活動している私たちにとって、とてもなじみ深い東京子ども図書館の司書さん、今回はとても楽しみにしていました。
東京子ども図書館は「子どもと本をつなぐための図書館」として1974年設立、母体となったのは4つの家庭文庫でした。3歳から大学生まで誰でも利用できます、もちろん大人もです。蔵書数9000冊の私立図書館です。
大きな特徴として、「なんかよんであげようか?」と子どもに声をかける決まった大人の人がいる、その大人の人は子どもたちの名前と顔が一致する。本来の児童サービスが当然のように今も行われている素晴らしい図書館のお話を聞くことが出来ました。
護得久先生が月刊誌「母の友」(福音館書店)に2020年から3年間連載された「子どもの本の図書館から」で取り上げたエピソードを交えて、「ずっと読みつがれている本」の魅力を語ってくださいました。
護得久先生の楽しいお話のなかで 「子供たちに本の楽しさを伝えるには、身近な大人が本を手に取り、読んでやり、子どもたちが、それを聞いて絵を隅々まで見てお話の展開にワクワクして楽しいと思える本を選ぶこと」
「子どもって、その本が新しいか古いかを実は気にしていない。子どもの本質は、面白い、知りたい、楽しいものには積極的に手をのばして本を選ぶ」 心に残りました。
午後の部
「絵本の庭から、物語の森・知識の海へ」
・大学では生物学を学んだ護得久先生がなぜ東京子ども図書館に就職し、児童図書館基本蔵書目録編纂に関わることになったのか、柔軟な発想をお持ちの東京子ども図書館の先生方と、子どもが好き!で本が好き!な前向きに進む護得久先生との出会いとエピソードでお話しいただきました。
東京子ども図書館から刊行された、「児童図書館基本蔵書目録」全3巻『絵本の庭へ』『物語の森へ』『知識の海へ』の編纂開始から完結までの多難の道のりを、数々のエピソードを交えて語ってくださいました。数々のエピソードが面白い!ここに書ききれないです。
質の高い作品を蓄積して提供することが使命である公立図書館では、専門職員不在や不安定雇用のため、図書館の蔵書構築が出来ない、蔵書管理が出来ないなど、不安要素満載の図書館の現状です。
それぞれの図書館で、指針となる「○○図書館基本蔵書目録」はあるのでしょうか。
新刊本ばかりに目を向けるのではなく子どもたちに手渡したい本のリストが欲しい。
『絵本の庭へ』『物語の森へ』『知識の海へ』の3冊がそのベースになってほしいと思いました。
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