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おすすめ本です!
のぞいてみて下さい!


栃木子どもの本連続講座の今年のテーマは「フランス・ベルギー・オランダの子どもの本」です。


このコーナーでは、連続講座の講義の中に取り上げられた本を、ごく一部ではありますが、講座の順に取り上げ、紹介していきます。
                        


            おすすめ本

         

                         
末松氷海子氏の講座
ペロー昔話・寓話集 
 

シャルル・ペロー/作
エヴァ・フラントヴァー/絵
末松氷海子/訳

西村書店

 フランスの児童文学がどこから始まったかといえば、このペローの昔話からではないでしょうか。ドイツのグリム兄弟が「子どもと家庭のメルヘン」として民間の口承文芸を集めて出版したのよりさらに一世紀も前に、ペローが編纂し独自の教訓を付け加えたものです。ペローの昔話と寓話のすべてが、美しい挿絵と装丁の一冊になっています。
 「眠れる森の美女」や「赤ずきんちゃん」などの有名なお話に加えて、あまり知られていないお話もたくさんあって、興味をそそられます。その語り口やお話の最後に付け加えられた教訓には、ルイ14世の宮廷人としてのペローの当時の考え方、風俗慣習の描写、鋭い風刺がこめられていて、これも興味深いところです。
 グリムのお話にもある「赤ずきんちゃん」や「灰かぶり(サンドリヨン)」のお話と少しずつ違っているところもあります。たとえば、グリムの「赤ずきんちゃん」では食べられたおばあさんも赤ずきんも、最後は猟師によってオオカミのおなかの中から助け出されますが、ペローのお話では、食べられて終わり。そしてこんな教訓がついています。
「(前略)オオカミといっても、全部が同じ種類ではないのです。たとえば、愛想がよくておだやかで、機嫌がよく、怒りっぽくなく、人なつっこく、だれにでも好かれるやさしいオオカミが、若い娘たちのあとをつけてきて家の中へ、ベッドの脇まで入りこんだりするのです。ああ、けれども、こんなやさしげなオオカミこそ、あらゆるオオカミの中でいちばん危険なのですよ」
 なんと、現代のおとなをどきっとさせる教訓ではありませんか。


『ミシュカ』
 
 
マリイ・コルモン/作
ジェラール・フランカン/絵
末松氷海子/訳

セーラー出版

この絵本のお話は1941年に書かれました。フランスで1931年ころから盛んになった新教育運動の一環として子どもの自発性や感受性を大切に育むために出版されたペール・カストール文庫の中の一冊です。フランカンの絵は、1991年に再刊されたときに新たに描きなおされたものです。
 ミシュカは、ビロードでできたぬいぐるみのくまです。いばりやでおこりんぼうのご主人のところから家出して、もうおもちゃのくまになんか、ぜったいにならないぞと決心して、雪の森の中をすすんでいきます。木の枝の上で眠ってしまった時、二羽のガンが「今夜はクリスマス!今夜はみんな、なにかひとついいことをしなくちゃいけないのよね」と話しているのを聞きました。ミシュカは(そうだったの。ぼく、ちっとも知らなかった)と思い、そのあと出会ったトナカイのプレゼントくばりを手伝うことのなるのですが、最後の病気の男の子の家まで行くと、どうしたことか、袋の中にはなにも残っていないのです。そこでミシュカはもうひとつの決心をすることになりました。
 小さい子どもであっても、対峙しなければならない問題、そしてしなければならない決心があるのです。ほのぼのとしたくまのミシュカの絵ですが、いちばんおしまいのページのミシュカには、かわいい中にもきりっとした決意が感じられませんか。


石津ちひろ氏の講座
 『だれも知らなかった お姫さま図鑑』

フィリップ・ルシェルメイエル
レベッカ・ドートゥルメール
石津ちひろ
講談社



 『お姫さま図鑑』には、かずかずの物語や逸話、秘密、そして肖像画が集められています。そのなかには、笑えるものや、おそろしいものもあれば、夢のふくらむものもあります―と、裏表紙に記されています。
 また、表紙絵は〈ドスンバタン戦争以前のゲリラ姫〉の何とも個性的な肖像画です。
 女の子は誰しも一度は可愛いお姫さまに憧れると思いますが、その思いでこの本を手にした読者は、多いに予想を裏切られます。そして一風変わったときめきと、妖しい迷路の中に放り込まれるでしょう。
〈ページ姫〉〈すやすや姫〉〈きまぐれ姫〉〈かたぶつ姫〉〈ゲリラ姫〉……。どのお姫さまも一筋縄ではいきません。ドキリとさせられたり、ハラハラさせられたり。耳慣れないお姫さまが登場しますが、意外に現実感があります。またどのページの冒頭にも、ピリッと風刺の効いた格言が載っています。〈すやすや姫〉の格言は―眠り、それは未知の物語を生み出すもの―、〈かしまし姫〉は―言葉は旅に出る、そして戻ってくるころには、もはや意味不明―、〈きまぐれ姫〉は―きまぐれ…それは自己愛からほとばしるしぶき―。
 いかにもフランスらしいエスプリの効いた数々のことばの前で、ふっと立ち止まって考えさせられます。また芸術的でおしゃれなイラストにも多いに魅せられます。
 最後には、〈本物のお姫さまを見分ける秘訣〉や〈お姫さまの診断テスト〉まで載っていて、読者の〈お姫さま度〉も測れます。    
本書は、一味も二味も違ったシュールな切り口で、お姫さまの奥深さを語った楽しさ満載の大人向けお姫さま図鑑です。

 フランシスさん、森をえがく』

フレデリック・マンソ石津ちひろ
くもん出版

これは最新の石津ちひろさん訳フランスの絵本です。
主人公のフランシスさんが森のモアビの木の枝に乗り、大好きな森を描いている表紙にまず目を奪われます。そしてこの表紙は『かわいいことりさん』(クリスチャン・アールセン/作 石津ちひろ/訳 光村教育図書)を思い起こさせます。鳥のすきなプリュームさんが、やはり大きな木の枝に乗っている絵が印象的です。
 さて、一日中森を描いて過ごすフランシスさんにとって森がなくなるということは、自分の命がなくなるということでもあったのですが、フランシスさんの涙に触発されてモアビの木が森を再生させます。また、鳥の観察を仕事とするプリュームさんは、奥さんのマドレーヌさんを「かわいいことりさん」と呼んでいましたが、ある日死んでしまいます。でも命は命を呼び起こします。
 森や鳥などの自然と人との関わりにあらためて心惹かれます。この不安に満ちた時代だからこそ自然との共生を強く望むのでしょうか。


野坂悦子氏の講座
 『きつねのフォスとうさぎのハース』
『その2 また たまご』『その3 南の島へ』

シルヴィア・ヴァンデン・ヘーデ
テー・チョンキン
野坂悦子
岩波書店



 食いしん坊のフォスとしっかりもののハースは森で一緒に暮らしています。きつねのフォスはふとっちょさん、うさぎのハースはお料理じょうず。
ある日、友だちのフクロウが大切にあたためていたたまごに、たいへんなことがおこります。「ピヨ、ピヨ!」と生まれてきたのは・・・
そして森の季節は秋から冬へ。ある日引っ越してきたおとなりさんは、しっぽは、
きつねにそっくり。あたまはうさぎにそっくり。名前はハネカザリ・シッポ。
フォスが言うには「すごいびじょ!」さて、いったいだれ?
この本はベルギー生まれの絵物語、本の姿も絵も文章も息がぴったりです。
3冊まとめて読んでください。大人も幸せな気分になります。
フォスもその3に登場するゾウアザラシも魅力的。
オランダでは週刊フォスとハースが出るくらいの人気だそうです

 『ひみつの小屋のマデリーフ』

フース・コイヤー
鈴木永子
野坂悦子
国土社



マデリーフは、いろんなことを知りたいと思っているオランダの女の子です。
 おばあちゃんが、病気で死んでしまいました。マデリーフは、おばあちゃんのことを良く知りませんでした。おばあちゃんは、どんな人だったのか?自分はおばあちゃんと似ているのかしら?と考えます。マデリーフは、いろんな人に聞いてみますが、お母さんもおじいちゃんも、あまり話してはくれません。みんなに理解されないまま死んで行ったおばあちゃんの姿を通して、人はどうやったら幸せになれるのだろう、人はどうやったら自分らしく生きて行けるのだろうと、問いかけている本です。
 この物語は、マデリーフを主人公にした四作目の本です。一作目とこの四作目は、オランダの児童文学として「金の石筆賞」を受賞しました。


 『第八森の子どもたち』

エルス・ぺルフロム
ピーター・ファン・ストラーテン
野坂悦子
福音館書店



第二次大戦末期のオランダの物語です。ノーチェは11歳。住んでいたオランダ東部のアルネムをめぐる戦いにイギリス軍が負けると、アルネムの人々は町を立ち退かなければならなくなり、ノーチェはお父さんと二人、自転車に荷物を積んで町を出ます。辿りついたのが、クラップへクと呼ばれる農家でした。クラップへクのおやじさんとヤンナおばさんは二人を受け入れます。クラップへクにはすでにテオという若者がおり、また後にはウォルトハウス一家4人、さらに身寄りのないおばあさんも受け入れます。クラップへクにはおやじさんとヤンナおばさん、ノーチェの1つ年上のエバートとおねえちゃんと呼ばれる重度の障害がある女の子、弟のヘリット、そして使用人のヘンクがいます。ドイツ軍が近くに迫り、クラップへクを兵舎に使ったり、常に不安と隣り合わせですが、みんなは牛の世話をし、作物を育て、町から食べ物や牛乳を求めて訪ねてくる人には分けてあげます。おやじさんは信心深く、おばさんはべたべたしてはいないけれど、思いやりに溢れています。ノーチェが第八森と呼んでいた森の中で、ユダヤ人の赤ちゃんが生まれると、引き取って面倒をみます。1945年の春、ドイツ軍が敗れるまでの1年弱の時が、ノーチェの目を通して描かれています。ドイツ兵もただの敵ではなく人間として描かれ、また季節の移り変わり、特に春を迎えた喜び、子どもらしい数々の遊び、それらを通してのノーチェやエバートの成長が生き生きと、また力強く描かれています。
 訳者の野坂先生のお話によると、表紙はオランダ版ではノーチェとエバートが描かれていたのが、オランダ人は世界一背の高い民族で、日本人から見ると、その絵はまるで大人のよう、というので日本語版では絵を差し替えたそうです。また画家のペーター・ファン・ストラーテンは、『おじいちゃんわすれないよ』などの挿絵画家ハルメン・ファン・ストラーテンのおじさんだということです。


西村由美子氏の講座
 『王への手紙 上下』

トンケ・ドラフト
西村由美
岩波少年文庫



 16歳の少年ティウリは、騎士叙任式の前夜、見知らぬ男から助けを乞われ、儀式を抜け出します。そして、死にゆく騎士から、誰にも言わない約束をして、隣国の王への手紙と指輪を預かります。こうして見習い騎士ティウリの冒険が始まるのです。
ティウリは、赤い盾の黒い騎士たちに追われ、味方であるはずの自国の騎士たちにも秘密をうちあけられません。騎士(まだ見習いですが)としての矜持や勇気・誠実さだけを武器に、森を抜け、山を越え、川を渡り、時には囚われながらもティウリの旅は続きます。
リストリディン騎士をはじめ両国の騎士たち、わけをきかずとも助けてくれる修道士さま、森の小屋のマヌケ<}リウス、山の隠者メナウレスさま、ウナーヴェン王の道化師ティリロ、そして、ティウリの無二の親友となるピアック。魅力的な大人たちが、ティウリとピアックの旅を手助けします。もちろん、かわいらしいお姫さまとの恋も!
はたして、ティウリたちは無事に手紙を届けることができるでしょうか。手紙には何が書いてあったのでしょうか。ぜひ、この物語をティウリといっしょに旅してください。
なおこの作品は、オランダの児童文学の重要な賞である「金の石筆賞」を、2004年には「金の石筆賞の中の石筆賞」を受賞しました。見開きにある王国の地図もイラストも、作者の手によるものです。

 『白い盾の少年騎士 上下』

トンケ・ドラフト作西村由美
岩波少年文庫

王への手紙』の旅を終え、騎士となったティウリ、そしてティウリの盾持ちとなったピアックのふたりは、春になったらと誘われていたリストリディン騎士の城を訪ねます。しかし、騎士は帰ってきません。楽しい再会の旅となるはずでしたが、やがてウナーヴェン王国を狙うエヴィラン国の陰謀に巻き込まれていきます。そして、前作では明かされなかった謎が解き明かされていくのです。
 原題は『野生の森の秘密』ですが、まさにティウリたちは今は誰も足を踏み入れない森の謎を探り、歴史を知ります。そして、大きな戦いへと物語は進んでいきます。そこには、人を傷つけることへの苦悩や美しい姫君の誘惑もあります。少年騎士ティウリは、ピアックの明るさ・誠実さ、ラヴィニア姫の勇気に支えられ、ふたたびウナーヴェン王国へと知らせを運んでいきます。
 トンケ・ドラフトは、第2次世界大戦中にオランダ領東インドで日本軍の収容所で3年間過ごしました。そのとき、お話を語る才能を発見したそうです。自由を求め、戦いを必ずしも善としないティウリの心は、その体験から育まれたものかもしれません。
 イリディアン皇太子の盾持ちであり、ウナーヴェン王の道化師ティリロが最後に歌う歌が、印象的です。
「わたしは剣と盾を下へ置く
    川の岸辺に。
    戦争はもうしない。」



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