『エゴール少年』
アントン・P・チェーホフ/作
エカテリーナ・ロシコーワ/絵
中村喜和/訳
未知谷
これもチェーホフ・コレクションの中の一冊で、既訳は『曠野』として知られた中編ですが、抄訳絵本として非常に抑制された色彩の絵を添えて出版されています。モノクロに近い絵は、ロシアの大平原の単調な木や草や風景を淡々と綴っていきます。
ワ―ニカと同じく9歳の少年エゴールは、中学校入学のため初めて母親から離れて、羊毛を売りに行く商人の伯父と共にバネなしのがたがたの馬車で、果てしない大地を旅していきます。母親の望みに従ったものの、エゴール当人は心細い思いを抱き、行けども行けども始まりも終わりもないような平原に圧倒されながらの初めての旅です。当時のロシアのふつうの人々の生活やありふれた出来事に、読者もエゴール少年の目をとおして次々に出会うわけです。現代の日本とは全く異なる風景の中を、一編の映画を見ているような感覚で読者も旅してゆく、そんな絵本になっています。
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